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デジタルブックに主力を置く会社

つまり、検査の結果は、Oのからだの中のデータを正しく示していなかったわけだ。
だから、著者の病院で検査したら、正常そのものであるのはしごく当然であった。 こう解釈し、Oに説明した。
大変な病気でなかったことにOは感謝し、病院をあとにした。 カリウムだけとも限らない。
じっは、健診でガンとすっかりまちがわれた被害者だってある。 人間のからだの細胞には、カリウムだけでなく、いろんな物質や酵素というものが詰まっている。
多数を対象とした健診では、こんな落とし穴もある。 こんな落とし穴は、判定する段階で医者がもっと注意しておけば、なにもわざわざ二時間もかけて大学病院まで来院することはなかっただろうに。
細胞が呼吸をしたり、エネルギーを使ったり、糖や脂肪などを代謝したり、細胞が生きていくのにはいろんな酵素が必要だからだ。 細胞の中にある酵素の一つに乳酸脱水素酵素というものがある。

これはDHとよく略され、健診でもDHという言葉が使われる。 DHは糖の代謝に重要なもので、とりわけ筋肉や肝臓などの細胞に多く含まれている。
また、ガン細胞にも多く含まれている。 クだから、肝臓病、心筋梗塞などのように筋肉が壊れる病気、そしてガンなどといった病気にかwかれば、DHが高くなる。
その数値を見れば、これらの病気を診断するのに役立つというわけだ。 ある日の外来診療に、五二歳の会社員が血相を変えてやってきた。
聞けば、会社で受けた健診の結果、ガンの疑いがあるので大学病院ですぐにくわしく調べてもらうように、産業医からいわれたということだった。 持参した健診の結果表を見てみた。
それによれば、会社で受けた血液検査の中で、DHが六○○単位とかなり高くなっている。 健康人の基準値は一○九?二一○単位である。
それが六○○単位とは、たしかに高すぎる。 さきほど述べたように、DHが高くなるもっとも多い原因は、肝臓病である。
急性肝炎、慢また、DHは筋肉が破壊されるような病気でも高くなる。 たとえば、心筋梗塞や筋肉の炎症などだ。
心筋梗塞なら、心臓に激烈な痛みがある。 また、GOTも同じように高くなるはずだ。
これも会社員には全く当てはまらない。 産業医はこうした結果をとくと考えた。
そしてたどりついた結論が、「ガンかもしれない」、ということだった。 ガンでは、ガンが大きくなるにつれてDHが高値になってくるからだ。

「ガンかもしれない」、といわれて心安らかな人はまずはいないだろう。 産業医にすすめられるがままに、著者の外来にやってきた。
と、こういうわけだ。 だから、DHの検査は肝臓機能検査の中に含まれていることが多い。
ただし、肝臓病の場合には、肝臓の機能を反映するGOT(最近ではASTという)、GPT(ATという)などの検査も同時に高くなることが多い。 黄痘が出ていることもある。
しかし、患者の検査結果をみれば、DHだけが高くなっている。 それを除けば、GOTもGPTも、ほかの検査ではまったく問題はない。
黄恒などの徴候もまるでない。 そんな肝臓病はっ性肝炎、肝硬変、肝臓ガンなどの肝臓病では、病気が進行するとともにDHが高値になってくるが、ガンにしても、会社員は見たところ元気そのものである。
食欲だって十分にあるという。 体重が減ってきたということもない。
発熱もない。 また、からだを丹念に診察したが、どこにも異常な徴候はない。

つまり、ガンにしても当てはまらないのだった。 そこで、まずおこなったのが、再検査である。
会社員から採血をして、病院の検査室に届けた。 待つこと一○分。
診察室のコンピュータに検査の結果が表示された。 不安な面もちのまま待合室で待っていた会社員を、おもむろに診察室へ招き入れた。
コンピュータの画面を指しながら、検査結果を説明した。 そこには、DHは一八○単位と表示されていたのだ。
つまり、DHは基準値であり、正常としかいいようがないのであった。 ガンなら、DHが次第に高くなりこそすれ、六○○単位から急に一八○単位にまで下がるはずはない。
つまり、思ったとおり、ガンも否定的だった。 では、なぜ会社の健診ではDHが六○○単位という高値が出てしまったのだろうか?DHも、赤血球という細胞の中にたくさん含まれている。
この会社は都内にあり、検査センターに運ばれて検査されるまでにたいした時間はかかっていない。 長引く不況で、最近では健診の項目を手控える会社を見かけるようになった。

が、バブルの時代には、会社の景気がよく、健診にも大盤振る舞いだった。 こんな検査もほんとうに必要かな、と首を傾げたくなるような検査項目まで、健診で検査をおこなう会社も多かつだが、大企業の健診では、いかにも大勢の人が一度に健診を受ける。
採血した試験管が、ついつい乱暴に扱われた可能性はある。 揺さぶられたり、ぶつけられたりしたかもしれない。
ともかく、試験管の中で赤血球が壊れたに違いない。 その結果、赤血球の中にあったDHが漏れ出したのだろう。
これも健診がでっち上げた〃仮病〃であった。 ガンという呪縛から解き放たれた会社員は、ほっとした面もちで病院をあとにしていった。
CKは、主に筋肉の中にある酵素だ。 絶えず収縮する筋肉の活動に重要な働きをおこなう役目そんな検査項目の一つに、クレアチン・キナーゼ(CKまたはCPKという)という酵素がある。
だから、CKが高値になるのは、炎症やケガなどで筋肉の細胞がどっと壊れ、中からCKが漏れ出てくる場合だ。 一九九五年の阪神・淡路大震災では、ダンスなどの下敷きになり、筋肉が障害された人でCKが極端な高値になった。
このときには、筋肉からミオグロビンなどという物質も漏れ出し、それが腎臓に詰まって腎不全を起こしたりもした。 圧挫症候群(クラッシュ症候群ともいう)といわれ、患者をヘリコプターで専門病院に輸送する必要があるなど、社会で大きな注目を集めた。
筋肉が壊れる病気の代表として、心筋梗塞がある。 心筋梗塞では、心臓の筋肉に栄養や酸素を運ぶ冠動脈に血栓ができ、血液が十分に流れなくなって心臓の筋肉が死滅してしまう。

その結果、CKが心臓の筋肉から漏れ出す。 並日通は健康な会社員を対象とするのが、会社健診である。
ダンスの下敷きになったり、心筋梗塞の人を調べることなんて、まずないだろう。 だから、健診にはさほど必要とも思われない。
だが、不思議なことに、会社の健診項目に載っていたのだ。 さて、ある日の外来に、会社の健診結果を持った会社員がやってきた。
今度は身の丈が一八○センチメートルはあろうかという二五歳の青年だった。 健診の結果によれば、CKが一○○○単位以上だという。
普通は二五?一八○単位が基準値である。 一○○○単位もあるのは大変な数値だ。
その会社の産業医は、CKの値をみて、心筋梗塞と考えた。 そして、すぐに大学病院へ行くように指示したそうだ。
心筋梗塞なら、そうとうな胸の痛みがある。 場合によっては、死の恐怖感すら漂うほどだ。
たとえ痛みを感じないとしても、少なくとも胸に不快感くらいは必ずあるはずだ。 会社員に尋ねたが、そのような痛みやら不快感はまるでない。
筋肉の炎症やケガもない。 そこで、例によってCKを再検査してみることにした。

結果は、一二○単位。 またしても、まったくの正常であった。

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